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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)350号 判決 1951年2月13日

主文

原判決を破棄する。

本件を広島高等裁判所に差戻す。

理由

第一点及び第二点について。

原判決の認定した事実によれば「控訴人(被上告人)及び被控訴人(上告人)の母藤井キクは平素病身であつた上夫宮太郎と不仲であつたところ昭和二一年八月五日被控訴人が父宮太郎及び兄控訴人が引留めるのをきかないで母キクを被控訴人の肩書居宅へ連れ帰り扶養看護を続け今日に至り其後控訴人や母キクの娘婿に当る羽言将一がキクを迎えに行つたけれども感情の行違いから被控訴人はこれをことわりキク自身もこれに応じなかつた」というのであつて原審は右事実に基づき上告人がキク扶養の全費用を負担しなければならないとしたのである。しかし扶養権利者が扶養義務者中の一人と同居することを好まず他の一人と同居して居るというには何かそれ相当の理由があるかも知れない例えば前者は扶養をすることはするが権利者に相当の扶養をしないとか或は更に進んで虐待の為め権利者は同居に堪えないとかいう場合がないではないかかる場合に後者が見兼ねて引取つて世話をしたとしたらどうであろうか(本件がそういう場合だというのではない或は結論としては原審の判断を相当ならしめる様な場合であるかも知れないがそれは当審では審理判断を為し得ないことだし原判文だけではわからない。)こういう場合にもなお前者は全面的に義務を免れ費用を出す義務もなく後者のみ全費用を負担しなければならないとするのは不当であろう若しそういうことになると冷淡な者は常に義務を免れ情の深い者が常に損をすることになる虞がある。それ故原審が認定判示した事実だけでは直ちに被上告人に費用の負担の義務なしとすることは出来ない。そういう結論に到達する為めにはなお進んで被上告人もキクに対し相当の扶養を為したであろうのに何等相当の理由もなく上告人が無理にキクを連れ去つたとか、或は上告人が自己のみで費用を負担することを約束したとか何等かそういつた様な被上告人をして全面的に義務を免れしむる相当の理由がなければならない。こういう点に付き原審が十分の判断を示すことなく単に上告人が被上告人の意思に反してキクを連れ去つたという事実だけで被上告人に費用負担の義務なしとしたのは審理不尽に非れば理由不備若しくは扶養義務に関する法律の解釈を誤つた違法あるものというの外ない。

よつて他の論旨に対する判断を省略し民事訴訟法四〇七条一項により主文のとおり判決する。

この裁判は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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